「私の心の原点 インド」
若干19才の私が、留学地として訪れたのがインドでした。最初に降り立ったカルカッタの町は、牛と人間が一緒に路上に寝転び、近代と古代が入り交じった風景に、人生観が180度変わってしまうほどの衝撃を受けました。
留学の地サンティニケタンはノーベル文学賞を受賞した詩人タゴールが私財を投じて大学を作った文教地区。そこで現地の学生と交流しながら、原点仏教の勉強をしました。授業は天気が良ければ(ほとんど天気は良いが)青空教室。日差しは強いけれど、乾いた空気の中での授業は気持ちがよく、日本の黒板を見ながらノートを必死に取る勉強しか知らない私は本当にびっくりの連続でした。
学習の一環として、仏祖釈尊の足蹠を数多く訪ねました。釈尊が「観無量寿経」や「法華経」を説いたとされる霊鷲山や、悟りを開いたとされるブッダガヤ、「平家物語」で有名な祇園精舎など、その時々の感動が今、私の仏教徒としての信仰の道の起点となっています。
インドと言えば有名なのはタージマハルですが、この地を訪れる際はぜひアグラ城(城塞)にも足を運んでほしいです。タージマハルを建てたムガル帝国皇帝シャー・ジャハーンは、晩年、息子に幽閉されるのですが、その幽閉先がアグラ城塞です。赤砂岩と大理石で作られたアラビア様式の美しい城からは遙か遠くにタージマハルが望めます。皇帝は74才で逝去するまで、幽閉された部屋から愛しい妻マハルの眠るこの霊廟を眺めて過ごしたといわれます。死後、皇帝は愛妻の隣で永遠の眠りについています。1983年にユネスコ世界遺産に認定されたアグラ城塞から、ぜひ遙かに見えるタージマハルを眺めてほしいと思います。
そして神秘の河ガンジス。人と建物のごちゃごちゃ加減が想像の斜め上を行く不思議な場所でした。遺体の横を人々は沐浴し、洗濯している端を汚物が流れる。日本では全く想像できない情景ですが、聖なる河はすべてを受け入れ、悠久の流れの中に溶けていきます。ガンジスに沈む夕陽を眺めていると、どこからともなく祈りの声が歌のように聞こえてきます。空と川面が赤く染まる空間にいる自分が、いかに長い歴史の中のちっぽけな人間なのかを思い知らされ、人生をいかに楽に、心地よく、幸せに過ごすか、案外これが一番大事なことなんじゃないか、と今までの人生観ががらりと変わった瞬間でした。
インドの人々は「来世は幸せになれる」という考えを持っていて、現世で様々な苦難を経験していても、どこか朗らかで楽天的です。留学中よく聞いたのは「ノープロブレム!」という言葉。そして「Don’t worry!Be happy!」という考え方です。がんを経験し、様々な体験を重ねる中で、思い通りに行かないときは、今でもこの二つを自分に言い聞かせています。 インドでの体験。それは私の大事な人生における「心の原点の旅」。いつか皆さんにの訪れてほしい場所です。
(山内千晶)